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私の技術者人生(13) [技術者人生]

 新しい職場はコンピュータシミュレーション、いわゆる「CAE」を活用した技術支援の部隊でした。特定の商品開発事業部に属するのではなく、全社的な支援組織でしたから対象商品はいろいろなものがありました。オーディオや映像機器などそれまではあまり縁のなかった商品も扱うようになりました。これらの商品はファンを使っていないことが多いので気流の解析というよりは放熱の解析がメインでした。
 全社の支援という立場から自分でテーマを決めることはしにくかったですが、ファンの仕事も細々と続けていました。同じ部署の上司だけでなく、周囲の人は全員、ファンのことがわからないので、完全に自分の裁量で進められるメリットがありました。以前開発したファンの設計ソフトの改良やファン性能の解析技術などもこの時期に進めることができました。

 この頃、超音波を用いた機器の開発にも関係する機会があり、超音波の伝播を解析できないかという相談を受けることがありました。当時、超音波を専門に扱うソフトウェアはすでにありましたが、それは波動方程式をベースとしたもので、静止した媒質中を超音波が伝播する現象を扱うものでした。私が相談を受けたのは空気中を伝播する超音波を扱うもので、媒質である空気の流れも考慮した解析が必要でした。超音波(音波)は空気の粗密波なので、空気の圧縮性解析を行なえば扱えるはずという考え方は一般的でしたが、精度を上げるためには膨大な計算量が必要だと思われていましたので実際の計算例を見ることはほとんどありませんでした。
 そこで、精度はあまり求めずに定性的な現象を捉えることを狙ってテスト計算をしてみると意外にそれらしい結果を得ることができました。依頼者も興味を示し、しばらくその検討を続けることになりました。音波の反射や回折なども表すことができ、直接波と反射波の重なりによって受信波形がどのように変化するか?など面白い評価に使えることがわかりました。もっとも、超音波の周波数が高くなると計算の時間分解能や空間分解能を上げる必要が出てくるので、実際の現象よりは低い周波数で計算するという工夫(妥協)が必要でした。
 当時、このような評価に市販の流体解析ソフトを使用している例はほとんどなく、ソフトウェアのベンダーに話をしても「そのような使い方は想定していいないので結果についてのコメントは一切できない」という返事でした。
 しかし、その1、2年後に流体騒音の解析がトピックスとして取り上げられることが多くなってきました。メインの計算手法は現在も主流となっている分離解法と言われるものでしたが、最も原理的な手法として上記の圧縮性解析の方法も含まれていました。世の中のトレンドになる前に手掛けていたというのは少しいい気持でした。
 騒音解析については、ファンの開発を行なっている者としては非常に魅力的でしたが、当時のハード、ソフトのレベルではとても実用になるものではなく、まだまだ一部の大学で研究中というレベルだと認識していました。

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